左室拡張能と心膜疾患

左室拡張能

拡張生理

拡張期:大動脈弁閉鎖から僧房弁閉鎖までのこと
以下の4つに分けられる
(1) 等容性弛緩期・・・大動脈弁閉鎖後、急速に左室圧が低下
(2) 左室急速流入期・・・左室圧が左房圧よりも低くなり僧房弁が開放
(3) 緩徐流入期・・・左房と左室の圧が等しくなり血流は低下
(4) 心房収縮期・・・心房収縮により血流を駆出

心房収縮は健常者で左室拡張終期容量の約20%に寄与するが、拡張能低下症例では50%に達することもある

左室拡張能評価

  1. 断層法
  2. 心不全症状がある患者で、エコー上、拡張を伴わない左室肥大、正常な収縮能が示されれば拡張障害が示唆される。また、左室充満に必要な圧が上昇するのに伴い左房拡大(4cm以上)がみられる

  3. 経僧房弁流入血流
  4. 僧房弁弁尖先端にサンプルボリュームを置き、パルスドプラ法で血流速度を計測し、経僧房弁血流(TMDF)速度波形から拡張能を評価

    IVRT:等容性弛緩時間
    E波:左室急速流入期による血流で作られるピーク
    A波:心房収縮期による血流で作られるピーク
    緩徐流入期には左室充満がほとんど起こらないため血流は最小限


    a. 弛緩障害
    左室が弛緩するのに時間がかかる
    →IVRT延長、拡張期の経僧房弁圧較差の低下し圧較差がなくなるまでの時間(DT)が延長、心房収縮時の流速が増大(E/A < 1.0)

    b. 偽正常化パターン
    中等度の拡張障害により弛緩能低下と左室コンプライアンス低下による左室充満圧上昇が拮抗し、見かけ上経僧房弁圧較差が正常になる

    c. 拘束性パターン
    左室コンプライアンス低下と左房圧の上昇を伴う
    →左房圧が上昇して拡張初期の急速な左室充満によりE波は増高、僧房弁が早期に開放するためIVRTは短縮、左房左室圧はすぐに等しくなるためDTは短縮、心房収縮期の血液流入はすぐ終わりA波が低下(E/A > 2.0)

    *前負荷と経僧房弁血流
    偽正常化パターン:逆トレンデレンブルグ位、バルサルバ操作、ニトログリセリン投与によって前負荷を下げると、もともとあった左室弛緩能低下のパターンが現れることがある
    健常者:前負荷を下げるとE波もA波も同様に低下する
    拘束性パターン:前負荷低下により偽正常化パターンにならない場合には非可逆性・末期拡張障害と判断できる

  5. 肺静脈血流
  6. 肺静脈血流(PVDF)速度波形はTMDF速度波形と組み合わせることで拡張能を評価できる

    PVS1:収縮期最初の波で、左房の弛緩と圧の低下によって起こる
    PVS2:収縮期後半の波で、右室の拍出、左房コンプライアンス、僧房弁逆流などを反映、PVS1と重なることが多い
    PVD:拡張期の左室急速流入による、肺静脈から左室への順行性血流
    PVAR:左房収縮時に起こる拡張後期の逆行性血流

    a. 弛緩障害
    僧房弁E波低下と平行してPVDが低下し、代償性にPVSの速度が増加して収縮期優位となる
    b. 偽正常化パターン
    重症度により拘束性パターンと同等の波形がみられる
    c. 拘束性パターン
    左房圧の上昇、左室コンプライアンスの低下により収縮期の順行性血流が低下し、収縮期鈍化となる
    左房左室圧はすぐに等しくなってしまいPVDの減速時間が減少
    左房圧が上昇しているため逆行性血流が増加してPVARの速度と持続時間が増加する
    不可逆性の拘束性病態では左房収縮障害のために、PVARの速度が低下する

  7. ドプラ波形に影響する生理的因子
  8. a. 前負荷
    前負荷増加により経僧房弁E波の速度が増加してIVRTとDTが短縮し、減少により逆のことがおこる
    b. 僧房弁逆流
    左房圧が上昇し、TMDFが増加するため、経僧房弁E波の増高がみられる
    c. 左室収縮能の単独低下
    左室充満が圧容量曲線のより急激な部分で起こるため、E波の増高とA波の減少がおこる
    d. 心房細動
    A波とPVARが消失し、E波の速度とDTは心拍数により決まる
    PVS1は消失し、PVS2が低下してPVD優位となる
    左室充満圧の増加に伴ってE波の加速度は上昇、DTが短縮し、PVDの持続時間と減速時間が短縮する

  9. 僧房弁輪組織ドプラ法
  10. 僧房弁輪組織ドプラは前負荷の影響を受けない左室拡張能の指標である
    ME four chamberでサンプルボリュームを僧房弁輪の側壁側において測定すると、収縮期の要素と拡張期の要素を認める

    拡張早期の組織速度(E’)は左室容積の変化に伴う組織速度を反映しており、心筋の弛緩と弾性による戻りの影響を主に受ける
    拡張後期の組織速度(A’)は左房収縮を反映している

    E’/A’は弛緩障害で低下するが、偽正常化・拘束性パターンでも低下したままである

  11. カラーMモード法
  12. 急速な心室弛緩によって生じる左室流入速度の伝搬速度(Vp)を評価する方法
    カラードプラ法で経僧房弁左室流入血流と平行にドプラビームを置き、僧房弁口から左室心尖部までの伝播波の先頭の傾きをカラー波で描出する
    経僧房弁Mモードドプラ血流伝播速度(Vp)は、僧房弁輪から始まり心尖に向かって最初の折り返し速度の傾きを測定することで得られる

    Vp正常値:55 ~ 100 cm/s
    左室弛緩能の低下により左室圧が十分低下しなくなるので、早期左室充満の伝播速度は低下する
    TMDF速度波形と異なり、Vpは前負荷に左右されず、偽正常化や拘束性でも低下したままである

心膜疾患

収縮性心膜炎

肥厚、石灰化した高輝度の心外膜、心室中隔の異常運動、吸気時右心系容量の増加により左室側への中隔偏移(左心系容積は減少)などが特徴的な所見

吸気時:経三尖弁E波は増加、経僧房弁E波は減少
呼気時:経三尖弁E波は減少、経僧房弁E波は増加
この変動は健常者でも生じるが5%以下の変動であり、25%以上の変動は収縮性心膜炎を示唆する

拘束性心筋症との鑑別

                       
収縮性心膜炎拘束性心筋症
心膜の高輝度エコー+++-
心筋の粒状高輝度-++
収縮機能正常やや低下
心室運動心室間の相互依存あり、吸気時に中核は左室方向に動く心室間の相互依存なし
E/A比< 1> 2
吸気時経三尖弁E波増加大きな変化なし
吸気時経僧帽弁E波減少大きな変化なし
肺静脈血流呼吸性変動あり、呼気時D波増加呼吸性変動なし
肝静脈血流呼吸性変動を伴う顕著なa波とy谷深い逆流のa波
組織ドプラ早期拡張期僧房弁弁輪速度(Ea)> 8cm/sEa < 8cm/s

心タンポナーデ

多量の心膜液の貯留、拡張早期右室虚脱、拡張後期から収縮早期の右房翻転、心室中隔の異常な動きなど

自発吸気時には右心系容量の増加と左心系の圧迫が起こる
陽圧呼吸下の場合は自発呼吸と胸腔内圧の変化が逆なので、呼吸変動も逆になることに注意

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